大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 昭和32年(ワ)2762号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と判断〕原告は、昭和二二年頃被告と知合い、被告が自分は妻と死別し子供一人を朝鮮在住の兄に預け単身で暮らしている、入籍はわけなく出来るし万一不能の場合は日本に帰化する(被告は朝鮮人)からと云つて結婚を申し込んだのでこれを承諾し、同棲を始めた。ところが昭和二五年四月頃被告の言に反して被告の本妻が一子を連れて朝鮮から密航して来て被告方を来訪したので、原被告間の生活は破壊され、原告は数回に亘つて家出を繰り返した後最後に昭和三二年五月家出して現在に至つた。

以上が原告の主張の骨子で、婚姻予約不履行等を理由に三〇〇万円の慰藉料を求めた。

被告は種々争つたが、裁判所は結局被告の婚姻予約不履行の責は免れないとした上、慰藉料の点につき次のとおり判示した。

「しかしながら成立に争のない乙第一号証と当事者弁論の全趣旨を総合すると、原告は右を事由として本件最後の家出をするに当り被告の不在中を奇貨として被告の銀行預金から金五〇万円を引出して持去つたこと明らかであつて、右原告の家出に当つて被告に宛てた置手紙である乙第一号証によると、

「本日限りでおひまを頂きます

理由は貴方自身がよく判つて居る筈です

長い間お世話になりました

お金五〇万円頂いて行きます。私も生きて行く為には多少のものは必要ですから仕方ありません

どうぞ幸福にお暮し下さいませ

永久にさようなら

五月一日 よし子

乙野一郎様」

とあり、右により原告の当時の意思を考えると、原告は本妻の出現により被告との婚姻継続を断念し、これが為蒙つた精神上の慰藉料相当金として自己の裁量によつて被告の金員中から金五〇万円を持出して向後一切の被告との関係を断とうとしたものであると認められ、従つて原告は当時金五〇万円を取得したことによつて爾余の慰藉料請求権を放棄したものと認めるのを相当とするところ、被告はこれまでに右金五〇万円の返還を求めた事実なく今後もこれを請求する意思なきことは被告弁論の全趣旨から自ら明らかであつて、原告が本妻の出現によつて相当の精神上の打撃を受けたであろうことは推認に難くないけれども(証人)の供述によつて認められる原告の過去の経歴、身分、原告が勝気で被告との夫婦生活中も協和を欠き少しも貞淑な家庭婦人とは認め兼ねること、更に原告本人の供述と当事者弁論の全趣旨により認められるこれまでも原告は度々家出復縁を繰り返しその都度原告は相当額の金員を持出したり、被告が家出中の原告の借財を支払つたこと等を考えると、金五〇万円の慰藉料は適当額であると認められるので、原告は前記請求権の放棄により爾余の請求をなす能わざるに至つたと認むるを相当とする。」

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!